治りにくいめまい④——前庭性片頭痛の診断と治療を深掘りする
五島耳鼻科めまいクリニック/東海大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科 教授 五島史行
「頭痛はほとんどないのに、繰り返すめまい」——この訴えで受診される患者さんの中に、前庭性片頭痛が隠れていることがよくあります。第1回でメニエール病との違いを解説しましたが、第4回は前庭性片頭痛の診断と治療をより深く掘り下げます。
前庭性片頭痛の診断基準——改めておさらい
最も重要な前提条件:「片頭痛体質があること」
前庭性片頭痛の診断基準で最初に問われるのは、**「この患者さんに片頭痛(の素因)があるか」**という点です。現在片頭痛がある方はもちろん、若い頃に頭痛持ちだったが今は頭痛がなくなっている方も含まれます。
めまいを繰り返している方に片頭痛の素因があるかどうかを確認することが、診断への第一歩です。
めまいの持続時間:5分〜72時間の幅
前庭性片頭痛のめまいの持続時間は診断基準で5分〜72時間と定められています。
この幅は非常に広く、見かけ上もっと短いめまいが積み重なって5分程度になった場合も含まれますし、72時間を超えて長引いている場合でも、その中で最も辛いめまいが72時間程度であれば基準を満たすと解釈されます。「だらだらと長引くめまい」が前庭性片頭痛の一つの特徴です。
客観的な検査基準は存在しない
これが診断を難しくしている最大の理由です。血液検査もMRIも「これが異常ならば前庭性片頭痛」という客観的な指標がありません。あくまで症状の経過から診断するしかないため、問診・症状の記録が診断の命綱になります。
前庭性片頭痛を疑うべき5つのポイント
以下の特徴を持つ患者さんでは、前庭性片頭痛を強く疑う必要があります。
① めまいが起きたり起きなかったりを繰り返す ずっとめまいが続くのではなく、発作的に出現して消えるパターンです。
② めまいの最中に頭痛・光過敏・音過敏・吐き気がある(ことがある) 全てのめまい発作に伴うわけではなく、「そういうことが出る発作もある」で十分です。
③ 頭痛が「ない」のにめまいを繰り返す 前兆(閃輝暗点:キラキラした光やギザギザが視野に見える)のみで頭痛がないタイプ(無頭痛片頭痛)の方が前庭性片頭痛と診断されることもあります。この割合は私の印象では10%以下ですが、「頭痛なし=片頭痛ではない」と判断されて診断が遅れることが多いです。
④ 他の病院で「異常なし」「メニエール病」と言われた 前庭性片頭痛はめまい・耳鳴り・難聴様の症状を呈することがあり、メニエール病と非常に似ています。他院で診断がつかなかったケースほど、前庭性片頭痛の可能性が高いと言えます。
⑤ PPPD・メニエール病と合併していることがある 前庭性片頭痛はPPPDや他のめまい疾患と合併することが少なくありません。「一つの病名だけで全ての症状が説明できない」場合は、複数の病態が重なっている可能性を考えます。
前庭性片頭痛が起きるメカニズム
明確には解明されていませんが、現在の仮説は次のとおりです。
片頭痛は**三叉神経(さんさしんけい)の刺激によって起きると考えられています。一方、めまいは前庭神経(ぜんていしんけい)**の刺激によって起きます。
若い頃は三叉神経への過敏性が高く(→頭痛)、年齢とともに頭痛は軽くなる一方で、その神経の「興奮しやすさ」が前庭神経へと移行していきます。その結果、同じメカニズムでめまいが引き起こされると考えられています。これが「昔は頭痛持ちだったが今はめまいが繰り返す」という患者さんのパターンをよく説明できます。
いずれにせよ、**脳の過敏性(感受性の高さ)**がベースにあることはPPPDと共通しています。
前庭性片頭痛を悪化させる誘因
前庭性片頭痛には様々な「引き金(誘因)」があります。自分でコントロールできるものと、できないものに分けて理解しておきましょう。
コントロールできる誘因
食事 カフェイン・ポリフェノール(チョコレート、赤ワインなど)・チラミン(チーズ、加工食品など)のような血管を拡張させる物質が誘因になることがあります。必ずしも全てを禁止する必要はありませんが、「食べすぎない」工夫が重要です。
睡眠 睡眠不足はもちろん、寝すぎでも発作が誘発されることがあります(休日の朝寝坊後にめまいや頭痛が起きた経験がある方はいませんか?)。「決まった時間に寝て、決まった時間に起きる」規則正しい睡眠が最大の予防になります。
食事の欠食 食事を抜いて血糖値が低下することも誘因になります。規則正しい食事をとることが大切です。
運動不足 1日5,000〜6,000歩のウォーキングなど、適度な有酸素運動が予防的に働きます。運動は血流改善だけでなく、気分転換・リフレッシュ効果もあり、予防効果が期待できます。
コントロールできない誘因
気象変動:気圧の変化(台風・低気圧の接近)が発作の引き金になることがあります。
月経:女性では月経前後に発作が起きやすい方がいます。
体質的な誘因
元々の片頭痛体質:脳の過敏性が高い方は、様々な刺激で発作が起きやすい状態にあります。乗り物酔いをしやすい・乗り物酔いのあとに揺れた感覚がしばらく残るという方は片頭痛体質の可能性があります。
ストレス:就職直後・職場環境の変化・人間関係の問題・家庭内の問題など、強いストレスが大きな誘因となります。ストレスそのものを完全になくすことは難しいですが、対処法を変えること・可能であれば回避することも時には必要です。
前庭性片頭痛の治療——予防治療が中心
前庭性片頭痛では、**発作を起こさないようにする「予防治療」**が治療の中心です。
予防薬①:カルシウム拮抗薬(代表:ミグシス)
最もよく使われる予防薬です。カルシウムチャンネルをブロックすることで、血管の過剰な拡張を抑え、脳の過敏性を鎮めます。「水道の蛇口を絞るイメージ」で、神経の興奮がダバダバと流れすぎないようにする薬と理解するとわかりやすいです。副作用が比較的少なく使いやすいため、最初に選ばれることが多い薬です。
予防薬②:抗うつ薬(代表:トリプタノール)
セロトニン・ノルアドレナリンなどの神経伝達物質に作用し、脳の過敏性を鎮める薬です。眠気が出やすいため、就寝前の服用が一般的です。
予防薬③:抗てんかん薬(代表:バルプロ酸)
別のチャンネルをブロックすることで同様に脳の過敏性を抑えます。妊娠中は服用できないため、妊娠の可能性がある女性には注意が必要です。
予防薬④:β遮断薬(代表:インデラル)
β受容体に作用し、脳の過敏性を鎮めます。血圧を下げる作用もあるため、血圧が低い方や喘息のある方には使いにくいことがあります。
予防薬の共通する注意点
予防薬は「めまいが起きたときだけ飲む」のではなく、めまいがあってもなくても毎日継続して飲む必要があります。
飲み始めて1〜2週間は効果が実感しにくいことが多く、1〜2か月かけて徐々に発作の頻度や強さが改善してきます。「飲んですぐ効く」わけではないことを理解した上で継続することが大切です。
完全にめまいがゼロになることは難しくても、睡眠不足・特定の食事・気圧変化などが重なったときに発作が起きることはあります。しかし発作の回数を減らしたり、1回のめまいの強さ・時間を短縮することは十分可能です。
患者さんの状態に合わせて薬を選択し、時には複数を組み合わせることもあります。
発作時の治療(頓服治療)
予防治療に加え、発作が起きてしまったときに使う**頓服薬(とんぷくやく)**も準備しておくことが重要です。
- 頭痛が強い場合:片頭痛治療薬(トリプタン製剤)や痛み止め(坐薬なども含む)
- めまいに対して:抗めまい薬
- 吐き気がある場合:制吐薬
「発作が起きたときにどう対応するか」を事前に医師と決めておくことで、発作時の不安も軽減できます。
生活改善と薬、どちらが大事?
「薬だけ飲んでいれば治る」わけではありません。ストレスが続いていたり、生活リズムが乱れていたりすると、薬の効果も十分に発揮されません。
逆に「生活改善だけで薬はいらない」かというと、発作の頻度・強さによっては薬物療法が不可欠です。
薬と生活改善はどちらか一方ではなく、両方を同時に行うことが前庭性片頭痛の治療の基本姿勢です。
大切なのは、自分の体の症状に向き合い、治療に時間を取ること。「良くなろう」とする姿勢が回復を後押しします。
Q&A
Q:前庭性片頭痛の予防薬にはどんな種類がありますか?
A:4系統あります。①カルシウム拮抗薬(代表:ミグシス)——最もよく使われ副作用が少ない。②抗うつ薬(代表:トリプタノール)——脳の過敏性を鎮める。③抗てんかん薬(代表:バルプロ酸)——妊娠中は使用不可。④β遮断薬(代表:インデラル)——低血圧・喘息の方には不向き。患者さんの状態に合わせて選択します。
Q:前庭性片頭痛の予防薬はいつから効果が出ますか?
A:毎日継続して服用する必要があります。飲み始めて1〜2週間は効果を実感しにくく、1〜2か月かけて徐々に発作の頻度・強さが改善してきます。飲んですぐ効くわけではないことを理解した上で継続することが大切です。
Q:前庭性片頭痛を悪化させる食べ物はありますか?
A:カフェイン・チョコレート・赤ワイン・チーズなど血管を拡張させる物質が誘因になることがあります。全てを禁止する必要はありませんが「食べすぎない」工夫が重要です。また食事を抜いて血糖値が下がることも誘因になるため、規則正しい食事も大切です。
Q:頭痛がないのに前庭性片頭痛と診断されました。本当ですか?
A:はい、あり得ます。閃輝暗点(キラキラ・ギザギザが視野に見える)のみで頭痛がない「無頭痛片頭痛」の方が繰り返すめまいを起こした場合、前庭性片頭痛と診断されます。診断がつかない患者さんの中に比較的多く含まれます。
Q:乗り物酔いしやすいのは前庭性片頭痛と関係しますか?
A:乗り物酔いしやすいことは片頭痛体質の特徴の一つです。乗り物酔いの後に揺れた感覚がしばらく残る症状がある場合、特に前庭性片頭痛の可能性を考えてみてください。
まとめ
- 前庭性片頭痛は片頭痛素因のある方に繰り返すめまいとして現れる
- 頭痛がなくても診断されることがある。客観的な検査基準はなく問診が命
- 誘因(睡眠・食事・ストレス・気象など)を把握して生活を整えることが重要
- 予防薬はカルシウム拮抗薬・抗うつ薬・抗てんかん薬・β遮断薬の4系統。毎日継続服用が基本
- 薬と生活改善を両輪で取り組むことが回復の近道
治りにくいめまいで治療を諦めていませんか?きちんと治療すれば、そのめまいは直せるかもしれません。
🎬 YouTube動画「治りにくいめまいシリーズ 第4回」もあわせてご覧ください。 https://youtu.be/dGgq434Z3l0
五島耳鼻科めまいクリニック 〒194-0041 東京都町田市玉川学園2-8-23 東海大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科 教授 五島史行
本記事は患者さんへの一般的な情報提供を目的としています。個別の症状・治療については専門医にご相談ください。








