治りにくいめまい②——PPPD(持続性知覚性姿勢誘発めまい)を徹底解説
五島耳鼻科めまいクリニック/東海大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科 教授 五島史行
「検査しても異常がない」「あなたのめまいはめまいではない」——そう言われ続けて途方に暮れている方はいませんか?慢性的なめまいの中で最も頻度が高いにもかかわらず、今も多くの患者さんが正しく診断されていない疾患があります。それが**PPPD(持続性知覚性姿勢誘発めまい)**です。
治りにくいめまいシリーズ第2回は、PPPDについて「どんな病気か」「なぜ起きるのか」「どう治すか」を詳しく解説します。
PPPDとはどんな病気か?
正式名称と意味
PPPDは Persistent Postural-Perceptual Dizziness(パーシスタント・ポスチュラル・パーセプチュアル・ディジネス) の略で、日本語では「持続性知覚性姿勢誘発めまい」と訳されます。
- Persistent(持続性):慢性的にめまいが続く
- Postural(姿勢性):立ったり歩いたりする姿勢で悪化する
- Perceptual(知覚性):脳が感じ取るめまい感覚が本質
2017年に国際バラニー学会で診断基準が定められた、比較的新しい疾患概念です。これまで「めまい症」「心因性めまい」「自律神経失調症」「高年期障害」などとひとまとめにされていた疾患群の中から切り分けられた病気です。
病名が広まっておらず、今も正しく診断されていない患者さんが非常に多いのが現状です。
PPPDの3つの診断基準
PPPDには次の3つの特徴がそろったときに診断されます。
① 3か月以上、毎日めまいが続く 発作的にオン・オフがある「発作性めまい」ではなく、ほぼ1日中ダラダラと続く「持続性めまい」です。
② 立っているとき・歩いているときに症状が悪化する 座っているより立っているとき、止まっているより歩いているときに症状が強くなります。
③ 視覚刺激によって症状が悪化する 人混み、流れる景色、スクロールする画面、縞模様、スーパーの棚など、動きや模様のある視覚的な刺激で症状が悪化します。
発作性めまいと持続性めまいの違い
| 発作性めまい | 持続性めまい(PPPD) | |
|---|---|---|
| 症状のあり方 | はっきりしたオン・オフがある | ダラダラと常に続いている |
| 症状のない時間 | ある(発作がなければ何もない) | ほぼない(常に何らかの感覚がある) |
| 悪化のきっかけ | 頭の動き・特定の動作 | 姿勢変化・視覚刺激・ストレス |
PPPDは「何となくずっとふわふわしている」「人混みに行くと激しくなる」「動画を見ていると悪くなる」といった訴えが典型的です。
なぜPPPDになるのか——脳の誤作動のメカニズム
きっかけは「耳のめまい」
PPPDは最初から慢性化するわけではありません。最初のきっかけは、良性発作性頭位めまい症(BPPV)・前庭神経炎・メニエール病など、何らかの耳の疾患によるめまいであることがほとんどです。
通常であれば、耳の疾患が治れば脳がめまいのない状態に戻っていきます。しかし——
脳が過敏になると慢性化する
一部の方では、耳の症状が改善した後も脳が「めまいがある」という感覚を記憶したまま誤作動し続ける状態になります。
健康な方なら何とも思わない程度の揺れや視覚刺激を、「大きな脅威・危険」として過剰に感じてしまう。これが「脳の誤作動」の正体です。
具体的には、脳の中でめまいを感じる部位(PIVC)の過敏状態が続き、さらに「怖い・危険だ」と感じる部位(扁桃体)が反応し続けることで、悪循環が生まれます。この状態がPPPDです。
誰がなりやすいか?
- 過去にうつ病・パニック障害・不安障害の治療歴がある方
- ストレスが多い環境に置かれている方
- 睡眠障害がある方
- 脳が敏感な体質の方(不安を感じやすい・緊張しやすいなど)
これらは「心が弱い」ということではなく、脳の感受性・環境的な要因によるものです。
「検査で異常がない」は本当にめまいではないのか?
臨床現場でも「検査しても異常がないから、あなたのめまいはめまいではない」と言われる患者さんが今でも多くいます。しかしこれは間違いです。
めまいとは患者さん自身が感じる感覚です。 たとえ眼振(目の動き)がなくても、体のふらつきが検査で確認できなくても、患者さんが「めまいがある」と訴えている以上、それは本物の感覚です。
PPPDでは脳の誤作動が原因のため、通常のめまい検査では「異常なし」と出ることがほとんどです。現状では患者さんの症状を丁寧に問診することでしか診断できませんが、だからこそ症状をきちんと聞いてくれる専門医のもとで診断を受けることが大切です。
PPPDの治療——3本柱
PPPDの治療は「薬物療法」「前庭リハビリテーション」「カウンセリング」の3本柱から成り立ちます。
第1の柱:薬物療法
一般的なめまいの薬(抗めまい薬)はPPPDにはほとんど効果がありません。PPPDに有効なのは抗うつ薬です。
最もよく使われるのはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)ですが、三環系抗うつ薬・SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)なども効果があります。
**「抗うつ薬と聞いてうつ病の治療なの?」と思われるかもしれませんが、そうではありません。**PPPDでは脳内でうつ病患者さんと似た状態が起きており、セロトニンなどの神経伝達物質を調整することで脳の過敏状態が落ち着き、めまい症状も改善すると考えられています。
うつ病との効き方の違い
うつ病の治療では抗うつ薬の効果が出るまでに2〜3週間かかりますが、PPPDの場合は服用開始から2〜3日という非常に早い段階で効果を感じることが多いです。この早さが、PPPDと脳の関係を示す一つの証拠でもあります。
副作用について:SSRIでは吐き気が出やすいことがあります。最近は吐き気の少ない系統の抗うつ薬も選択できるため、副作用が心配な方はその旨を医師に伝えてください。2〜3週間服用して効果がない場合は、別の薬剤に変更します。
第2の柱:前庭リハビリテーション
前庭リハビリテーションとは、目や首を意識的に動かすことで、脳のめまいへの過敏さを段階的に解除していくトレーニングです。薬物療法のような即効性はなく、1〜3か月以上の継続が必要です。
基本の動き(水平・垂直の頭部・眼球運動)
- 手を目の前に差し出し、親指の先を見ながら首を左右に30度ずつ動かす(目は親指の先を見続ける)
- 同じように親指の先を見ながら首を上下に動かす
- それぞれ20回×3セット、1日3回行う
このリハビリの本質は「わざとめまいを起こして脳を慣らす」ことです。動くとめまいがして辛い患者さんこそ、この訓練に取り組む必要があります。
ただしごく一部に、無理に行うことで悪化してしまう方もいるため、無理のない範囲で少しずつ行うことが基本です。
施設に専門の理学療法士がいない場合でも、YouTube動画や書籍を参考に自宅で実施できます。当クリニックのYouTubeチャンネルでもリハビリ動画を公開しています。
第3の柱:カウンセリング(認知行動療法)
カウンセリングの目的は、めまいへの恐怖感を和らげ、考え方の歪みを修正することです。
多くのめまい患者さんは「めまいがすると、もうどこにも行けない」「また倒れたらどうしよう」という否定的な思考パターンに陥りがちです。カウンセリング(特に認知行動療法)では、「まあ、いいか。動いてみよう」と開き直れる心のあり方を少しずつ育てていきます。
前庭リハビリテーションが「行動を変えるトレーニング」、カウンセリングが「考え方(認知)を変えるトレーニング」と理解すると分かりやすく、両者を合わせると「認知行動療法」と呼ぶこともできます。
短時間の外来では難しい場合、臨床心理士やカウンセラーへの依頼も選択肢のひとつです。
PPPDの治療が難しい理由
PPPDの治療には以下の3つのハードルがあります。
- 診断が難しい:客観的な検査で診断できず、問診だけで診断するため、専門知識のある医師でなければ正しく診断できない。
- 対応できる医療機関が限られる:薬物療法・リハビリ・カウンセリングの3本柱を提供できる施設は多くない。
- 治療効果が出るまでに時間がかかる:他のめまい疾患と比べて治療効果が出るまでの期間が長く、診断から治療完了まで半年〜1年かかることも珍しくない。
診断に1年かかったという方も、治療開始から症状が改善するまでに半年かかったという例も少なくありません。しかし、適切な治療を受ければ必ず改善の方向に向かいます。
Q&A
Q:PPPDとはどんな病気ですか?
A:PPPDは「持続性知覚性姿勢誘発めまい」の略で、2017年に国際バラニー学会で診断基準が定められた疾患です。3か月以上毎日めまいが続き、立ったり歩いたりすると悪化し、視覚刺激(人混み・流れる映像など)でも悪化する3つの特徴を持ちます。脳の誤作動が原因であり、検査で異常がなくても本物のめまいです。
Q:PPPDの治療に抗うつ薬を使うのはなぜですか?
A:PPPDでは脳内でうつ病患者と似た状態が起きており、SSRI・SNRIなどの抗うつ薬で脳の過敏状態を整えることでめまい症状も改善します。うつ病の治療ではなく、めまいという体の症状に対して使用するものです。症状が改善すれば減薬・中止できます。
Q:前庭リハビリテーションはどこで受けられますか?
A:専門の理学療法士がいる施設は限られています。一般的にはYouTube動画を参考にしながら自宅で実施します。親指の先を見ながら首を左右・上下に20回ずつ×3セット、1日3回行うものが基本です。1〜3か月の継続が必要です。
Q:PPPDは検査で診断できますか?
A:客観的な検査でPPPDを診断することはできません。患者さんの症状を詳しく問診することでのみ診断が可能です。「検査で異常がないからめまいではない」という考え方は間違いで、症状の経過がそろっていれば診断されます。
Q:PPPDとメニエール病は合併しますか?
A:はい、合併することがあります。もともとメニエール病や前庭性片頭痛があった方がPPPDに移行するケースや、複数の疾患が同時に存在するケースも少なくありません。
まとめ
- PPPDは2017年に国際診断基準が定められた「慢性めまいの中で最も多い疾患」
- 「検査で異常なし」でもめまいは本物。脳の誤作動が原因
- 治療は薬物療法・前庭リハビリ・カウンセリングの3本柱で行う
- 診断・治療に時間はかかるが、正しく対処すれば必ず改善できる
治りにくいめまいで治療を諦めていませんか?きちんと治療すれば、そのめまいは直せるかもしれません。
🎬 YouTube動画「治りにくいめまいシリーズ 第2回」もあわせてご覧ください。 https://youtu.be/RFrvf3LH-eA
五島耳鼻科めまいクリニック 〒194-0041 東京都町田市玉川学園2-8-23 東海大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科 教授 五島史行
本記事は患者さんへの一般的な情報提供を目的としています。個別の症状・治療については専門医にご相談ください。








