治りにくいめまい①——メニエール病と前庭性片頭痛を正しく知ろう
五島耳鼻科めまいクリニック/東海大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科 教授 五島史行
めまいが3か月以上続いているのに「検査で異常がない」「更年期のせい」と言われ、どこへ行っても改善しない——そんな「めまい難民」の方が多くいらっしゃいます。しかし、めまいには原因ごとに適切な治療があり、正しく診断・治療すれば必ず症状を改善できます。
この「治りにくいめまいシリーズ」では、慢性めまいの代表的な原因疾患を回ごとに掘り下げて解説します。第1回はメニエール病と前庭性片頭痛の基礎知識です。
「治りにくいめまい(難治性めまい)」とはどういう状態?
難治性めまいとは、何らかの治療を行っているにもかかわらず3か月以上症状が続いている状態を指します。ダラダラと続くふわふわ感の場合も、突然ぐるぐるするめまいが繰り返す場合も、どちらも該当します。
よく「更年期前後の女性に多い」と言われますが、更年期のフラフラ感とまったく同様の症状がメニエール病や前庭性片頭痛でも現れます。「全て更年期によるもの」として見過ごされてしまうことが少なくありません。
また、20代の就職直後のストレスが引き金になるケースも、70代の介護負担がきっかけになるケースもあります。几帳面で真面目な性格の方がなりやすい傾向はありますが、それは「気のせい」を意味しません。症状の原因を正しく見極めることが、治療の第一歩です。
メニエール病——3つの症状が繰り返す内耳の病気
メニエール病の3大症状
メニエール病は、次の3つの症状を繰り返すことを特徴とする内耳の疾患です。
- 回転性めまいの発作を繰り返す
- 耳鳴りを繰り返す
- 難聴(聴力の低下)を繰り返す
三徴がそろってこそメニエール病です。名前はよく知られていますが、正確に診断されていないケースも少なくありません。
めまいの持続時間は10分〜数時間が目安
メニエール病のめまい発作の持続時間は、日本めまい平衡医学会の診断基準では通常10分から数時間程度とされています。1日以上続くような長いものはメニエール病らしくなく、逆に数秒で終わるようなものもメニエール病とは考えにくいです。
めまいの「感じ方」(ぐるぐる回る・ふわふわするなど)は個人差が大きいため、どれくらいの時間続くか・耳の症状があるかどうかの方が診断上より重要です。
右・左どちらの耳かを区別することが重要
メニエール病は内耳が原因で起きるため、必ず「右メニエール病」または「左メニエール病」と特定されます。これが前庭性片頭痛との鑑別をする上でも重要なポイントになります。
メニエール病の原因——内リンパ水腫とストレスの関係
メニエール病の本体は内リンパ水腫(ないりんぱすいしゅ)——内耳にある「内リンパ嚢」と呼ばれる水袋に水が過剰にたまった状態です。
本来、内耳では水(内リンパ液)が一定量つくられ、吸収されるサイクルを繰り返しています。ところがストレスによって自律神経が乱れると、この水の産生・吸収バランスが崩れて水が過剰にたまってしまいます。
近年MRI技術が進歩し、この内リンパ水腫を画像で確認できるようになりました。これはメニエール病の診断・治療における大きな進歩です(ただし内リンパ水腫があるだけでは確定診断にはならず、症状の経過との組み合わせが必要です)。
めまいは「これ以上やってはいけない」という体の警報装置のようなもの——それを無視して無理を続けると症状が悪化し、難聴も回復しにくくなります。ストレスの原因が何かを振り返ることが、回復への重要な手がかりになります。
メニエール病の診断ステップ
- 病歴の確認:めまい・耳鳴り・難聴を繰り返しているかどうか。これが最も重要です。
- 聴力検査:難聴が認められるかを確認します。
- 内耳MRI:内リンパ水腫の有無を画像で確認します。ここ7〜8年で精度が大きく向上しました。
MRIを行わなくても、症状の経過が診断基準を満たせばメニエール病と診断できます。逆に内リンパ水腫が確認されたからといって、めまい・耳鳴り・難聴の繰り返しを伴わない場合は、他の疾患(突発性難聴など)の可能性もあります。
メニエール病の治療——段階的に選択肢がある
治療は段階的に行います。
ステップ1:生活習慣の改善
- 規則正しい睡眠をとること
- 1日5,000〜6,000歩程度の有酸素運動(ウォーキングなど)
- 水分を少し多めに摂ること(尿として内耳のむくみが取れると考えられています)
ステップ2:薬物治療 生活習慣の改善だけで効果が不十分な場合、浸透圧利尿薬や漢方薬が用いられます。
ステップ3:中耳加圧治療・鼓室内注射 薬物治療でも改善が得られない場合、専用機器による鼓膜マッサージ(中耳加圧治療)や、耳に直接薬を注射する方法があります。
ステップ4:手術(内リンパ嚢開放術) それでも改善しない場合の最終手段として、内リンパ嚢を解放する手術があります。
各ステップの効果は2週間を目安に判定し、効果がなければ次の治療へ進みます。治療の選択肢があることを知らないまま「治らないめまい」として諦めている方が多くいます。
前庭性片頭痛——「頭痛のないめまい」として見逃されやすい病気
前庭性片頭痛とは?
**前庭性片頭痛(Vestibular Migraine:VM)**は、バランスの神経である「前庭」に症状が出る片頭痛のことです。若い頃に片頭痛があった方・現在も片頭痛がある方を基本的な素因として、めまいを繰り返す疾患です。
最大の特徴は、めまいの最中に必ずしも頭痛を伴わないことです。過去に片頭痛があった方が年齢とともに頭痛が軽くなり、代わりにめまいとして発症するケースが多く、「メニエール病」「高年期障害」「自律神経失調症」などと誤診されていることが非常に多い疾患です。
片頭痛の見分け方
「片頭痛」といえば「頭の片側が痛い」と思われがちですが、それだけではありません。以下の3つのうち2つを満たすと片頭痛と診断できます。
- 頭痛の最中に吐き気・嘔吐を伴う
- 頭痛の最中に動くとつらい(横になっていたい)
- 頭痛の最中に光・音・においに過敏になる
また、片頭痛は遺伝性が非常に高く、特に女性側の家系に遺伝します。祖母・母・本人と続くケースも珍しくありません。ご自身の親族に頭痛持ちの方がいれば、片頭痛体質を持っている可能性があります。
前庭性片頭痛のめまいの持続時間
診断基準では5分〜72時間と幅広く定められています。パッと起きてすっきり終わるメニエール病と比べ、だらだらと長引いたり、終わったと思ってもまた出てきたりするのが特徴です。
なぜ診断が難しいのか?
血液検査やMRIで「これが異常なら前庭性片頭痛」という客観的な検査基準が存在しません。問診だけで診断するしかないため、見逃されやすい疾患です。
また、患者さん自身も「昔の頭痛と今のめまいが関係しているとは思わない」ことが多く、医師から詳しく聞かれなければ片頭痛の既往が浮かび上がりません。症状のダイアリー(日記)をつけてもらうと、めまいと頭痛の関連に患者さん自身が初めて気づくことがよくあります。
前庭性片頭痛の治療
一般的なめまいの薬は効きにくく、片頭痛を予防するための薬が治療の中心となります。睡眠指導と日常の運動指導も行いますが、あくまでも原因は片頭痛ですので、めまいの薬だけでは良くなりません。
治療を始めてから効果が出るまでに2〜4週間かかります。めまいがゼロになることは難しくても、発作の回数を減らしたり、1回の持続時間を短くすることは十分可能です。治療は基本的に薬物療法が中心となります。
受診前に準備しておきたいこと
① 片頭痛があるかの確認 現在片頭痛があるか、若い頃に頭痛持ちだったかどうかを振り返りましょう。特に閉経後の方は「昔の頭痛と今のめまいが関係しているとは思わなかった」というケースが多いです。
② 症状の記録 めまいの発作が起きたとき、以下を記録しておきましょう。
- 発作の日時と持続時間
- めまいの前後に頭痛があったか
- 右か左か(耳鳴り・聞こえにくさがある場合)
- 発作のきっかけとなった出来事
問診だけでは診断できないため、この記録が診断を大きく助けます。日本頭痛学会のウェブサイトから頭痛ダイアリーをダウンロードして活用してください。
Q&A
Q:フラフラするめまいが続いています。更年期と言われましたが他の可能性はありますか?
A:あります。更年期のふらつき感とメニエール病・前庭性片頭痛のふわふわするめまいは症状がよく似ています。「全て更年期によるもの」と決めつけず、めまい専門医による鑑別診断を受けることをお勧めします。
Q:めまいと耳鳴りがあります。メニエール病ですか?
A:めまいと耳鳴りが同時にある場合、メニエール病の可能性はありますが、それだけでは断定できません。難聴を繰り返しているか、発作の持続時間、右か左かなど詳しい病歴が診断のカギになります。専門医を受診してください。
Q:めまいの最中に受診すべきですか?
A:回転性めまいが起きている最中は薬を飲んで横になって安静にしてください。症状が落ち着いてから記録を持参して受診するのが正解です。ただし、呂律が回らない・手足に力が入らない・症状が急激に悪化する場合はすぐに救急受診してください。
Q:めまいを診てもらえる病院はどこで探せますか?
A:日本めまい平衡医学会が認定する「めまい相談医」を受診するのが目安です。学会ホームページで検索できます。前庭性片頭痛・PPPDを含む診療に積極的かどうかもホームページで確認されることをお勧めします。
まとめ
- 難治性めまいは3か月以上治療しても改善しない状態。原因はひとつではない。
- メニエール病はめまい・耳鳴り・難聴を繰り返す内耳の疾患。段階的な治療で必ず改善できる。
- 前庭性片頭痛は「頭痛のないめまい」として見逃されやすい。問診と症状記録が診断の鍵。
- 更年期症状と誤診されていることが多いが、正しい診断を受けることが改善への第一歩。
治りにくいめまいで治療を諦めていませんか?きちんと治療すれば、そのめまいは直せるかもしれません。
🎬 YouTube動画「治りにくいめまいシリーズ 第1回」もあわせてご覧ください。 https://youtu.be/QqGR2JzK-7Q
五島耳鼻科めまいクリニック 〒194-0041 東京都町田市玉川学園2-8-23 東海大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科 教授 五島史行
本記事は患者さんへの一般的な情報提供を目的としています。個別の症状・治療については専門医にご相談ください。








