治りにくいめまい⑤——めまいとストレスの深い関係
五島耳鼻科めまいクリニック/東海大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科 教授 五島史行
「検査で異常がないのだから、めまいは気のせいだ」「ストレスで神経質になっているだけ」——そう言われ、傷ついた経験をお持ちの方は少なくないと思います。しかし、めまいは決して気のせいではありません。
治りにくいめまいシリーズ最終回は、めまいとストレスの深い関係について、脳科学的な根拠も含めてわかりやすく解説します。また、自分でできる4つの具体的な対処法もご紹介します。
めまいは「気のせい」ではない——脳内で本当に起きている現象
私はめまいの診療を32年間続けてきました。多くの患者さんが「いろんな病院で検査をしたが異常がないと言われた」「気のせい」「ストレスからくる」「気にしすぎ」と繰り返し言われてきた、と話してくれます。そして「精神的な問題」として精神科・心療内科への受診を勧められることも多いようです。
めまいは体の症状です。精神的なものから来る症状だとは思っていません。多くの患者さんがそれを告げられてショックを受けているのも当然です。
しかし——「気のせいではない」と「ストレスが関係している」は矛盾しません。
実際、画像研究や解剖学的研究によって、めまいが起きているとき、脳の中で本当に何かが起きていることが証明されています。めまい発作中に患者さんが強い不安・恐怖を感じていることも、脳科学的に確認されています。
つまり「ストレスが関係している」は「気のせい」ではなく、「脳の中で実際に起きていることの一部にストレスが関与している」という意味です。
体はどうやってバランスを保っているのか
めまいとストレスの関係を理解するには、バランスの仕組みを知ることが助けになります。
人間のバランス機能は、次の3つの入力情報を脳で統合することで成り立っています。
- 前庭(内耳):体の傾き・回転・加速度を感知する
- 視覚(目):周囲の環境を見て位置を確認する
- 体性感覚(足の裏など):地面の感触で体の位置を確認する
この3つが脳のPIVCという部位で統合されてバランスが取られます。どこかに異常があるとめまいが起きますが、そのめまいを「危険だ・脅威だ」と感じる部位が別にあります——それが**扁桃体(へんとうたい)**です。
扁桃体とめまいの慢性化
扁桃体は恐怖・不安を感じる脳の部位です。めまいが起きたとき、扁桃体が「これは危険だ」と反応することは正常な反応です。
しかし、
- 感じ方が強すぎる
- 一度感じたものをずっと引きずる
……この2点が続くと、脳がどんどん過敏になり、少しの揺れや動きをより大きな危険と感じるようになる悪循環が生まれます。これがめまいの慢性化・治りにくさに深く関与していると、最近の研究で考えられています。
ストレスはこの悪循環を加速させます。ストレスがある状態では扁桃体が活性化しやすく、めまいへの恐怖・不安がより強くなります。
ストレスがめまいに影響する2つのパターン
パターン①:ストレスが直接めまいを起こす 強いストレスを感じたとき、体がクラッとするような感覚を経験した方も多いでしょう。これはストレスが直接めまいを起こしている状態です。
パターン②:もともとあるめまいをストレスが悪化させる 内耳の病気や前庭性片頭痛など、何らかのめまい疾患がある方でも、ストレスによって症状が悪化します。これは「身心症(体の病気が心理社会的ストレスによって悪化すること)」のひとつとして位置づけられます。
前速症(過敏性腸症候群)や下性腸(機能性消化管障害)なども同様のメカニズムで起きる代表的な疾患ですが、めまいもその一つです。
なぜ患者さんは「ストレスがない」と言ってしまうのか
外来でよくあることがあります。
医師が「ストレスはありますか?」と尋ねると、多くの患者さんが「特にないと思います」と答えます。しかし詳しく話を聞くと、周囲の人が聞けば明らかにストレスフルな環境に置かれていることが少なくありません。
なぜこうなるのか——。
健康な人は「これはストレスだ・これはそうでない」と自分の感覚を仕分けできます。しかし、めまいが慢性化すると、自分のストレスを正確に認識する力が低下してしまいます。より病気が進行すると、「ストレスなんてありません」と言いながら、体はストレスに強く反応している状態になってしまいます。
「嫌だと感じていないつもりなのに、体が嫌なものだと反応している」——これがめまいを難しくする大きな背景のひとつです。
ストレス対処とめまい治療——2つのアプローチ
ストレスが関係しているめまいを改善するためのアプローチは大きく2つあります。
アプローチ①:専門医に相談して薬に頼る
ストレスによるめまいに薬を使うことは、特殊な治療ではなく標準的な医療です。精神科・心療内科でも使われる種類の薬(抗うつ薬など)を用いることがありますが、めまいという体の症状に使う場合、一生飲み続けなければならないということにはなりません。症状が改善すれば、段階的に減薬・中止できます。
「精神的な薬は飲みたくない」という気持ちはよく理解できますが、まずは担当医に詳しく話を聞いてみてください。
アプローチ②:めまいに囚われすぎないこと
薬と同じくらい重要なのが、患者さん自身の取り組みです。以下に自分でできる4つの方法を具体的にご紹介します。
自分でできる4つのこと
① 「異常なし=安心していい」と認識する
「今起きているめまいが、重大な病気のサインではない」という事実をまずしっかりと受け取りましょう。
常に「このめまいの裏に何か怖い病気があるのではないか」という気持ちがあると、なかなか改善しません。脳の精密検査で異常がない、危険な所見がないと確認できたのであれば、それを安心の根拠にしてください。
ただし、次の症状がある場合はすぐに受診してください:
- 呂律が回らない
- 手足に力が入らない・しびれる
- 一人で歩くことができない
- めまいの症状が急速に悪化している
- めまい以外の新しい症状がどんどん出てくる
これらは脳血管疾患などの重大な病気の可能性があります。
② 動きを避けない
めまいがあると、「動くとまためまいが起きるのではないか」という恐怖から、なるべく動かないようにしてしまいがちです。しかしこれがめまいの慢性化を招きます。
1日15〜20分のウォーキング、または前庭リハビリテーション(目や首を使った体操)を積極的に行うことがめまい改善に非常に有効です。
めまいがしていても体を動かすこと——これが脳の過敏状態をリセットする鍵です。体を動かさないと、めまいという症状に意識がどんどん集中してしまい、悪循環が強まります。
外を歩くのが難しい場合は、家の中を歩くだけでも構いません。家の中でできる前庭リハビリテーション(第2回参照)から始めてみましょう。
③ 睡眠時間をしっかり確保する
睡眠は、めまい治療の中でも特に優先度の高い要素です。
睡眠をとること自体を、仕事や他の何よりも優先するという意識の転換が重要です。「眠れないから仕方がない」ではなく、「眠れる状況を意識して作る」姿勢が大切です。
目標にすべき睡眠時間は、症状が出始める前の時期に取っていた睡眠時間(ただし若い頃ではなく、ここ1〜2年前の感覚)です。翌日の昼間にパフォーマンスが落ちない・眠くならない睡眠時間が、自分に必要な時間の目安になります。
具体的には:
- 毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きる
- 就寝時刻を先に決め、そのために他のことを調整する
- 昼寝は15〜20分以内に留める
④ 呼吸を整える
不安になると、呼吸は自然と浅くなります。浅い呼吸は自律神経を乱し、めまい症状を悪化させることがあります。
呼吸の基本は「吐く時間を吸う時間より長くすること」です。私が患者さんにお勧めしているのは次の腹式呼吸法です。
4秒吸って6秒吐く腹式呼吸
- お腹に手を当てる
- 鼻から4秒かけてゆっくり息を吸いながらお腹を膨らませる
- 口から6秒かけてゆっくり息を吐きながらお腹をへこませる
特定の時間に必ず行う必要はありません。「あ、呼吸が浅くなっているな」と気づいたときに意識的に行う習慣をつけることが大切です。通勤中でも、職場のトイレでも、就寝前でも、気づいたときに取り組めます。
めまいとストレスに向き合うために
めまい患者さんがストレスに向き合うことは、想像以上に難しいことです。症状があると「まずめまいをなんとかしなければ」という気持ちが前面に出て、ストレスを振り返る余裕が生まれにくいのは当然です。
しかし、めまいとストレスは「どちらか一方だけを治療する」ものではなく、両方同時に向き合うことで初めて改善するものです。
薬で症状を和らげながら、少しずつ体を動かし、眠れる環境を整え、呼吸を意識する——この積み重ねがめまいの慢性化を断ち切るための道筋です。
Q&A
Q:めまいは本当に気のせいではないのですか?
A:めまいは決して気のせいではありません。脳の画像研究・解剖学的研究によって、めまいが起きているとき脳内で本当に何かが起きていることが証明されています。検査で異常が出なくても本物の症状です。「検査で異常がないからめまいではない」という考え方は間違いです。
Q:ストレスがあるとなぜめまいが起きるのですか?
A:ストレスはめまいを2つの形で影響します。①直接めまいを起こすケース(強いストレスで体がクラッとする感覚)と、②もともとあるめまい症状をストレスが悪化させるケースです。めまいは身心症の一つと位置づけられています。
Q:めまいに対して自分でできることはありますか?
A:4つあります。①「重大な病気ではない」と安心する。②動きを避けない(1日15〜20分のウォーキングや前庭リハビリを行う)。③睡眠時間をしっかり確保する(毎日同じ時間に就寝・起床)。④呼吸を整える(4秒吸って6秒吐く腹式呼吸を意識する)。
Q:「ストレスがない」と思っているのにめまいが続きます。なぜですか?
A:慢性めまいの患者さんはストレスを自覚しにくくなる傾向があります。客観的に見るとストレスフルな環境にいても「ストレスはない」と答えることがよくあります。自分の生活・仕事・人間関係を書き出して整理することで気づきが生まれることがあります。
Q:腹式呼吸がうまくできません。どうすればよいですか?
A:横になってお腹の上に本を置き、吸ったときに本が持ち上がることを確認しながら練習すると感覚をつかみやすくなります。完璧にできなくても「ゆっくり吐く」意識だけで自律神経を整える効果があります。
まとめ
- めまいは気のせいではなく、脳の中で本当に起きている現象。脳科学的にも証明されている。
- ストレスはめまいを直接起こすこともあれば、悪化させることもある。両者は深く関連している。
- 慢性化しためまいの患者さんは、ストレスを自覚しにくくなる傾向がある。
- 自分でできる4つのこと:① 「異常なし」を安心の根拠にする、② 動きを避けない、③ 睡眠を優先する、④ 呼吸を整える
- 薬と自分の取り組みを組み合わせることが慢性めまいからの回復の道筋
治りにくいめまいで治療を諦めていませんか?きちんと治療すれば、そのめまいは直せるかもしれません。
🎬 YouTube動画「治りにくいめまいシリーズ 第5回」もあわせてご覧ください。 https://youtu.be/3iH9enUs6wI
五島耳鼻科めまいクリニック 〒194-0041 東京都町田市玉川学園2-8-23 東海大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科 教授 五島史行
本記事は患者さんへの一般的な情報提供を目的としています。個別の症状・治療については専門医にご相談ください。








