第3回【特定の動作でめまい!?】良性発作性頭位めまい症(BPPV)を三半規管模型で解読


治りにくいめまい③——BPPV(良性発作性頭位めまい症)を正しく治す

五島耳鼻科めまいクリニック/東海大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科 教授 五島史行


朝起き上がったとたんにぐるぐる回るめまい。寝返りを打つたびに目が回る。上を向いたり下を向いたりするだけでめまいが起きる——これらに心当たりのある方は、**BPPV(良性発作性頭位めまい症)**かもしれません。

BPPVは発作性めまいの中で最も頻度の高い疾患です。正しく診断・治療すれば改善できますが、最もやってはいけない対処法を無意識にしてしまっている方が多くいます。

治りにくいめまいシリーズ第3回は、BPPVの仕組みと正しい治し方を詳しく解説します。


BPPVとはどんな病気?

**BPPV(Benign Paroxysmal Positional Vertigo)**は日本語で「良性発作性頭位めまい症」と呼ばれます。耳の奥にある「耳石(じせき)」が本来の場所から剥がれ落ち、三半規管の中に迷い込むことで起きるめまいです。

「良性(Benign)」という言葉がついていますが、これは「命に別状がない」という意味であり、症状が軽いという意味ではありません。めまいが繰り返し起きるため日常生活への支障は大きく、現在は国際学会でも「良性という呼び方は適切ではないのではないか」という議論がされているほどです。


BPPVの4つの特徴

BPPVには次の4つの典型的な特徴があります。これらがそろっていれば、BPPVの可能性が高いと言えます。

① 頭を動かしたときにめまいが起きる 特定の動作——寝返り、起き上がり、振り向き、上を向く(目薬を差すような動作)、下を向く——など、日常生活の頭の動きで誘発されます。

② めまいの持続時間が非常に短い 通常10秒〜30秒程度で、1分を超えることはほとんどありません。この「短さ」がBPPVの大きな特徴です。

③ ぐるぐる回転するめまい ふわふわするタイプではなく、「ぐるぐる回転する」回転性のめまいであることがほとんどです。

④ 再発しやすい さまざまな研究から、30〜40%の方が再発すると言われています。一度治っても繰り返す方が少なくありません。

また、難聴や耳鳴りなどの耳症状は通常ありません。もともと難聴や耳鳴りがある方がBPPVになっても、それらはBPPVとは別の問題です。


耳石とは何か?——三半規管の解剖学

BPPVを理解するためには、耳の構造を少し知っておくと助かります。

内耳には**三半規管(さんはんきかん)**という3つのリング状の管があります。

  • 水平半規管:水平方向(左右)の頭の動きを感知
  • 前半規管:垂直方向(前後)の頭の動きを感知
  • 後半規管:垂直方向(後ろ側)の頭の動きを感知

それぞれの半規管が、頭が動いたことを脳に伝える「センサー」の役割を果たしています。

そして内耳には**耳石器(じせきき)**という場所があり、カルシウムの結晶からなる「耳石」が付着しています。耳石は重力を感知するセンサーとして機能しており、通常は耳石膜の上でしっかりと固定されています。

BPPVでは、この耳石が何らかの原因で耳石膜から剥がれ落ち、三半規管(主に後半規管または水平半規管)の中に迷い込んでしまいます。そして頭を動かすたびに耳石が管の中で動き、センサーを過剰に刺激することでめまいが起きるのです。


なぜ耳石が剥がれるのか?

耳石が剥がれやすくなる主な原因として、以下のことが考えられています。

① 閉経後の女性ホルモン低下 BPPVは50歳以上の女性(閉経後)に多く、医学的にも裏付けられています。エストロゲン(女性ホルモン)が減少すると、カルシウムの代謝・吸収に影響し、耳石が剥がれやすくなると考えられています。

② カルシウム不足・骨粗しょう症に似た状態 耳石はカルシウムの塊ですので、骨粗しょう症と似たメカニズムで脆くなることがあります。

③ 頭部への打撲 頭をぶつけることで耳石が剥がれることがあります。

④ 低い枕で寝る習慣 重力の力で耳石膜から耳石が剥がれやすくなることが知られています。


どの半規管に入ったかで症状が違う

耳石がどの半規管に入ったかによって、症状の出方と治療法が変わります。

後半規管型(最も多い) 垂直方向の頭の動き(起き上がる・寝る)で誘発されます。特定の方向に頭を倒したときに短時間の回転性めまいが起き、しばらくすると治まる——これが典型的な後半規管型のパターンです。

水平半規管型 主に水平方向の動き(寝た状態での寝返り)で誘発されます。左右どちらかに寝返りを打つたびにめまいが起き、反対側に向いてもめまいが起きるため、「どっちを向いてもめまいがする」という訴えになります。


診断——眼振(がんしん)の観察が決め手

BPPVの診断は、特定の頭の動きをしたときに現れる「眼振(眼球の規則的なピクピク動き)」を観察することで行います。

フレンツェルメガネ(目を拡大するための特殊なメガネ)や眼振観察カメラを使い、患者さんを寝かせたり起こしたり、寝返りをさせたりしながら、目の動きを詳しく観察します。どの方向の頭の動きでめまいが誘発されるか、眼振の向きや持続時間を確認することで、どちらの耳・どの半規管に耳石が入っているかを診断できます。


BPPVの治療——最もやってはいけないのは「動かないこと」

BPPVの治療で最も大切なことをひとことで言えば、**「動くこと」**です。

逆に最もやってはいけないのが「動かない(安静にする)」ことです。安静にしてしまうと、剥がれ落ちた耳石が元の場所に戻ることができないだけでなく、耳石どうしがくっついて大きな塊になり、めまい症状がかえって強くなってしまいます。

BPPVには主に2種類の治療法があります。


治療法①:エプレー法(Epley法)——後半規管型に有効

**エプレー法(頭位治療法)**は、ベッドに寝た状態で、医師や理学療法士の指導のもと、特定の方向に頭を段階的に動かすことで、三半規管内に迷い込んだ耳石を元の場所(耳石器)に戻す体操です。

具体的には、頭の向きを変えながら寝たり起きたり、寝返りをしたりという動きを一連の流れで行います。

効果:通常1〜2回の施術で70〜80%の方が改善すると言われており、非常に有効な治療法です。

注意点:患者さんが自己流でやると、頭の動かし方が誤って耳石が別の半規管に入ってしまうことがあります。必ず専門家の指導のもとで行ってください。


治療法②:寝返り体操——水平半規管型に有効

寝返り体操は、寝た状態で首ごと体を右・正面・左と回転させる動きを繰り返す体操です。左右それぞれ3回ずつ行います。

エプレー法と異なり、動き自体はそれほど難しくないため、YouTube動画などを参考にしながら自宅で行うことができます


なぜ動くと治るのか?

頭を動かすことで耳石が元の場所(耳石器)に戻りやすくなります。また、何度も頭を動かすことで耳石が粉々になり、吸収されて消えてしまうことも考えられています。耳石の塊がなくなれば、めまいも消えます。


薬物療法について

BPPVに対してめまいの薬が処方されることもありますが、薬は耳石を溶かすわけではなく、めまい症状を和らげるための対症療法に過ぎません。したがって薬を飲んでいても、体をしっかり動かすことの方がより重要です。


再発を防ぐために

BPPVは30〜40%の方が再発します。再発しやすい方には、以下のような生活習慣の見直しが有効です。

  • 低い枕は避ける:頭が低すぎる姿勢は耳石が剥がれやすくなります
  • 適度な運動を習慣にする:運動不足は再発のリスクを高めます
  • カルシウムをしっかり摂る:骨や耳石の健康維持に重要です
  • 閉経後の女性はホルモン・骨密度の管理を:かかりつけ医と相談してみてください

Q&A

Q:BPPVとはどんな病気ですか?

A:BPPVは良性発作性頭位めまい症の略で、耳の中の耳石が本来の場所から剥がれ落ち、三半規管に迷い込むことで起きるめまいです。発作性めまいの中で最も頻度が高い疾患で、寝返り・起き上がり・上を向くなどの頭の動きで誘発され、10〜30秒の短時間でぐるぐるするめまいが起きることが特徴です。

Q:BPPVの治療で最もやってはいけないことは何ですか?

A:最もやってはいけないのは「安静にして動かないこと」です。動かないと耳石が元の場所に戻れないだけでなく、耳石どうしが固まって大きな塊になりめまい症状がかえって悪化します。BPPVの治療は「動くこと」が基本です。

Q:エプレー法とはどんな治療ですか?

A:エプレー法は、ベッドに寝た状態で医師や理学療法士の指導のもと、特定の方向に頭を段階的に動かすことで三半規管内に迷い込んだ耳石を元の場所に戻す体操です。主に後半規管型BPPVに有効で、通常1〜2回の施術で70〜80%の方が改善します。自己流では耳石が別の場所に入ってしまうことがあるため、必ず専門家の指導のもとで行ってください。

Q:寝返り体操は自宅でできますか?

A:はい、できます。水平半規管型BPPVに有効で、寝た状態で首ごと体を右・正面・左と回転させる動きを左右3回ずつ繰り返すものです。YouTube動画などを参考にしながら自宅で実施できます。

Q:BPPVはなぜ再発しやすいのですか?

A:BPPVは30〜40%の方が再発します。耳石が剥がれやすい体質(特に閉経後の女性)や、低い枕での就寝・運動不足などの生活習慣が再発リスクを高めます。再発した場合も同様の治療で改善できます。


まとめ

  • BPPVは発作性めまいの中で最も頻度が高い疾患。耳石が三半規管に迷い込むことで起きる。
  • 特徴は「頭を動かしたときに起きる、短時間(30秒以内)の回転性めまい」
  • 最もやってはいけないのは「動かないこと(安静)」
  • 後半規管型にはエプレー法、水平半規管型には寝返り体操が有効
  • エプレー法は専門医の指導が必須。1〜2回で70〜80%が改善

治りにくいめまいで治療を諦めていませんか?きちんと治療すれば、そのめまいは直せるかもしれません。


🎬 YouTube動画「治りにくいめまいシリーズ 第3回」もあわせてご覧ください。 https://youtu.be/aV6_Gu1ZN48


五島耳鼻科めまいクリニック 〒194-0041 東京都町田市玉川学園2-8-23 東海大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科 教授 五島史行

本記事は患者さんへの一般的な情報提供を目的としています。個別の症状・治療については専門医にご相談ください。

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